厳しい冬の寒さに耐えた動植物たちが、春の訪れに目を覚まします。中でも、いち早く春を告げる花といえば、梅ということになるでしょうか。
東風(こち)吹かば
匂いおこせよ梅の花
主無しとて春な忘れそ
有名な菅原道真の短歌ですが、かまぼこで、春を再現したのが「梅焼き」です。すり身を卵黄で溶き、梅型に入れて柔らかく焼き上げた、香ばしい卵黄のほっこりとした食感が持ち味で、関西人には、馴染み深いねり製品です。
愛らしい梅の花の外見と、繊細で微妙なふわふわ感は、職人の手焼きの技のみによって生み出されます。カステラのような風味は、いま流行のかまぼこスイーツのはしりといえるかも知れません。
関東の人には意外かも知れませんが、梅焼きは、関東炊き(おでん)の種としても珍重されます。出汁をたっぷりと吸い込んだシュワシュワとした食感は、さらに美味しさを際立てます。関東のはんぺんに匹敵する関西のおでん種かもしれません。梅焼きを楽しみながら春の到来を味わってみてください。
梅焼きの始まりについての記録はあまり残されていませんが、100年以上前から作られていたようです。関西ではポピュラーな厚焼きかまぼこの生地を梅の花の型枠に入れて、鉄板の上で、一つ一つ丁寧に焼き通す、手造りにより作られます。
以前は厚焼き鍋を用いて、その中に4個の梅型を入れて焼いていましたが、現在のように鉄板上で焼くように効率的なやり方を取り入れたのは、大寅かまぼこの創業者・小谷寅吉氏といわれています。
早春に梅の花を眺め、梅焼きを肴に一献傾けてみてはいかがでしょうか。