一時期、落語人気の陰りが囁かれた時期もありましたが、日本テレビの「笑点」をきっかけに、この頃では、寄席に足を運ぶお客さんも増えてきたようです。
江戸時代に誕生した落語は、手軽な庶民の娯楽として親しまれ、市井の人々に、愛され、育まれて、今日に至っています。そのため、庶民の日常生活の中で、垣間見る人間模様を軽妙洒脱に描写した場面が多く、時代の風俗、生活感を伺い知ることができます。
かまぼこが登場する演目も少なくありません。その代表格が、「長屋の花見」。皆さんも一度は、耳にしたことがあるでしょう。長屋の熊さん、八つぁんが、大家さんから蒲鉾、卵焼きと酒を差し入れられて花見を楽しむという話ですが、蒲鉾は大根の漬物、卵焼きは沢庵、酒は番茶を薄めたもので、いくら飲んでも酔わない。これをうまく描写するのが演者の腕の見せ所ということになりますが、酒代わりの茶碗の中に茶柱が立っているのを見て、「これは、長屋に良いことが起こるに違いない」と結ぶのが、オチのセリフとなっています。
もう一つは「時そば」。五代目柳家小さんや五代目古今亭志ん生が十八番にしていた演目ですが、ある男が夜泣き蕎麦屋でそばを注文する。代金を払う段階になり小銭で一枚一枚手渡しながら、ある額まで渡したところで今の時を聞いて1文ごまかす。別の男が自分も得をしようと、真似るものの、逆に損をしてしまうというのがオチですが、「蒲鉾が厚く切ってあるのは嬉しいね」などと蕎麦屋を褒めちぎるくだりがあります。
ほかにも、亭主の浮気を題材とした「権助魚」、サメに襲われた乗合船を蒲鉾屋が救った「兵庫船(桑名船)」、名人しん生の「替り目」(おでんとはんぺん)などにも、かまぼこが登場します。
平安時代に誕生した蒲鉾は貴重な食べ物として、貴族や武将たちの食卓を飾ってきましたが、江戸時代に入ると、広く庶民生活の中に浸透し、ご馳走として親しまれていたということが、落語を通じても知ることができます。